【トピックス・文献紹介】高齢者では健康でも低血糖のリスクあり! 食間の認知機能低下をスローカロリーで防ごう

 低血糖というと、糖尿病患者さんの血糖管理との関連で取り上げられることが多い。最近では、糖尿病患者さんの低血糖が認知症や血管イベントのリスクであるとするエビデンスが蓄積され、かつての厳格な血糖管理は見直され、低血糖リスクを極力避けるようになりました。とくに、高齢者の血糖管理に際しては、ガイドラインではHbA1cの下限値も示されています。
 一方で、低血糖は糖尿病患者さんだけでなく、健康な高齢者にも起きているとする報告がみられるようになってきました。さらに、高齢ドライバーに多い自動車事故に、低血糖に伴う認知機能の低下が影響しているのではないかと指摘する研究が発表されています。

軽症低血糖の大半は自覚症状がない

 徳島大学名誉教授の島健二先生(社会医療法人川島病院)は、ご自身の体験から血糖値が下がる食間の低血糖により認知機能が低下しているのではないかと考え、ご自身を被験者とした研究を行っています1~3)

 その研究では、空腹時には血糖値が基準値以下に低下し、そのような状態では計算問題の処理時間が長引き、回答の間違いも増え、甘い物を食べると計算速度が回復したという結果を報告しています。

 一般に、血糖値が70mg/dL以下になることを低血糖といい、さらに低下すると、手足の震え、冷や汗、動悸、異常な空腹感、判断力の低下、物が二重に見える、手足を動かせなくなるといった自覚症状が現れます。糖分を摂取することで回復しますが、さらに血糖値が低下して50 mg/dLになると、意識を失うこともあります。

 ただし、健康な人に生じる軽度の低血糖の大半は自覚症状に現れず、本人は気づいていないと考えられます。

糖尿病でない高齢者に低血糖が起きる理由

 糖尿病治療を行っていない高齢者に低血糖が起きる原因として、おもに二つのことが考えられます。

●糖の貯蓄や産生力が低下している
 非高齢の健康な人であれば、しばらく空腹が続いても、肝臓のグリコーゲン分解、あるいは肝臓・腎臓で糖新生が生じ、低血糖にはなりません。しかし高齢になるに従い、肝臓や腎臓に限らず多くの臓器の機能が低下し、それに伴い、グリコーゲンの貯蓄や糖新生も低下していくと考えられます。

 それが、高齢者では低血糖が起きやすくなる原因の一つとして想定されます。

●食後の血糖スパイクが起きやすい
 高齢者は全身の筋肉量が少なくなっているために、食後の糖の利用が減ることや、膵臓の機能低下のためにインスリン分泌が遅れがちになることから、食後の急峻な血糖上昇「血糖値スパイク」が起こりがちです。

 血糖値スパイクが起きると、その後にインスリンが過剰に分泌され、血糖値が必要以上に低下する「反応性低血糖」を惹起されます。これが、高齢者に低血糖が起きやすくなる二つ目の原因です。

低血糖が交通事故のリスクに

 最近、低血糖による認知機能の低下が、交通事故の原因の一つである可能性が指摘されています。

 この低血糖と交通事故の関連は、通常「無自覚性低血糖」が原因と説明されます。重度の低血糖を起こした直後や低血糖を頻繁に繰り返している患者さん、あるいは合併症の神経障害のある患者さんに起きる低血糖で、自律神経症状よりも先に中枢神経症状が出現し、急に手足が動かなくなったり、意識を失ってしまうという病態です。この無自覚性低血糖が起こる可能性がある場合は、運転免許の更新等に申告が必要とされます。

●糖尿病患者さんの低血糖と交通事故
 糖尿病患者さんの低血糖と交通事故の関連する研究は多く、それらをレビューした論文が報告されています4)。このレビューでは、1946~2015年に発表された、糖尿病患者さんの低血糖と交通事故の報告を取りまとめて解析しています。

 低血糖が運転パフォーマンスに及ぼす影響を検討した研究では、低血糖により運転に不可欠な認知機能(注意力、反応時間、手と目の協調など)が損なわれること、運転シミュレーターを使用した研究では、中程度の低血糖によって運転パフォーマンスが悪影響を受け、スピードの出しすぎ、信号や道路標識の無視、ブレーキの遅れなどの問題が発生することなどが示されています。また、運転中に低血糖を経験した頻度について、英国とニュージーランドからは1年で13~29%、米国からは41%というデータが報告されていました。

 これらの研究では、低血糖による事故のリスクを回避するために、糖尿病の人では運転中に血糖値を定期的に測定し、72mg/dL未満になった場合や低血糖になりそうなときは運転を中止することなどが推奨されています。

●糖尿病でない人の低血糖と交通事故の関連
 今回、取り上げた島先生の研究は、糖尿病でない高齢者にも生じることのある、軽度の低血糖による一時的な認知機能低下に伴う自動車事故のリスクについても言及しています。

 島先生は、ご自身を被験者として運転シミュレーターを用いた検討も行っています。その結果、血糖値が70mg/dL未満の時に、やはり運転操作の反応時間が延長し、補食をとって血糖値が回復すると、元の反応時間に戻ったとのことです。

 この結果から、論文中の考察で先生は、高齢者に多発するブレーキとアクセルの踏み間違え等による悲惨な事故の一部は、健康な人にも生じることのある軽度の低血糖が関連している可能性を指摘されています。

●健康な人の低血糖が多くの領域の事故・エラーに関連している?
 島先生の研究で注目すべきことは、血糖値が70~72 mg/dL未満という、ごく軽い低血糖について警鐘を鳴らしている点です。70mg/dLを下回らないレベルの、従来の考え方では直ちに危険とは言えない程度の血糖レベルであれば、糖尿病でない人の日常生活でもしばしば生じていることには、恐らく多くの方が一般の方の健診データなどから首肯されるのではないでしょうか。

 日常生活において連続的に血糖値を測定できる技術が普及してきたので、このような誰にでも起き得る低血糖と、自動車事故、あるいはその他のヒューマンエラーによる重大事故との関連が、今後明らかになっていくと期待されます。

 島先生は、このような健康な人の低血糖と認知機能の問題は世界的に未解決であるとし、今回の研究を世界に紹介するために、英語の論文として発表されています。

低血糖を防ぐスローカロリー

 高齢者に起こりがちな軽度の低血糖を防ぐ食事の方法として、食べる量は変えずに、血糖値を上げる糖質をゆっくり消化吸収させていく「スローカロリー」の実践があります。スローカロリーは、糖質の消化吸収を遅くすることで、食べ物を摂取した後の急峻な血糖上昇「血糖スパイク」を抑制し、かつ、食間の血糖値を適度な高さに保つという方法であり、血糖値の上昇が穏やかなグリセミック・インデックス(GI)の低い食事「低GI食」を心がけるということです。

 低GI食にするには、例えば食事の最初にご飯やパンなどの炭水化物を食べず、野菜や脂質・蛋白質の食品から食べ始めることのほかに、低GIの食材を使用する方法もあります。それらを活用することで低血糖のリスクを抑えることができます。

 食事の数時間後に、頭がよく回っていないようだと感じることがあるのであれば、それは低血糖のリスクかもしれません。日頃の食生活を見直し、重大な事故や仕事のミスを引き起こすリスクを少しでも下げるために、スローカロリーの実践を検討してみてはいかがでしょうか。

コメント

 糖尿病の患者さんでは認知症が多く、高血糖がその原因と考えられています。一方で、低血糖も認知症のリスクを増大させることが知られています。しかし、糖尿病でない健常人におけるマイルドな血糖値の低下が認知機能に与える一過性または長期的な影響についてはほとんど知られていません。

 今回の論文3)では、著者お一人の体験とはいえ、健常高齢者において、不規則な食事による血糖値の低下や、食後の反応性低血糖などにより、認知機能が一過性に低下する可能性が示されています。したがって、反応性低血糖が起こりにくいスローカロリー食は、低血糖リスクとそれによる一過性の認知機能低下を防ぐ可能性があると考えられます。

 高齢者におけるマイルドな低血糖と重大事故との直接的な関連は明らかではありませんが、高齢者の自動車事故が問題になっている現在、このような視点からの研究が進むことを期待します。(大内 尉義、スローカロリー研究会 理事)

文献

1) Yoshihiko Noma, Machiko Komatsu, Keiko Miya, Kenji Shima: Cognitive dysfunction during hypoglycemia in an elderly subject without diabetes. Diabetology International 2019 Dec 10;11(2):150-154 (doi: 10.1007/s13340-019-00419-4)
2) 徳島新聞 2019年12月19日
3) 島健二:低血糖がらみ.日本臨床内科医会会誌.2020年6月 35(1):8-16
4) Alex J Graveling et al: Driving and diabetes: problems, licensing restrictions and recommendations for safe driving. Clin Diabetes Endocrinol. 2015 Aug 10;1:8(doi: 10.1186/s40842-015-0007-3
(2020年12月 更新)
(2020年12月 公開)
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