【トピックス・文献紹介】イソマルツロース摂取後の代謝、スポーツパフォーマンス、 消化器症状への影響を検討したドイツからの報告

 イソマルツロース(パラチノース)摂取後の糖代謝やホルモン分泌、スポーツパフォーマンス、消化器症状を、無作為化二重盲検法でグルコースやマルトデキストリン摂取後と比較検討した研究結果が、国際スポーツ栄養学会の学会誌「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に掲載された。
 ドイツ体育大学ケルン校の研究者らの報告を紹介する。

インスリン分泌の抑制でエネルギー基質が変化するか?

 グリセミックインデックス(GI)の低い炭水化物は、摂取後の血糖上昇が穏やかであり、インスリン分泌を過剰に刺激しない。インスリンは脂質酸化の抑制因子であることから、運動前の低GI食摂取は脂質酸化率の増加につながる。これは運動中のグリコーゲンを温存するように働き、持久系スポーツでは競技後半のパフォーマンス低下抑止を期待できる。

  実際、低GI炭水化物食品の一つであるスローカロリー糖質「イソマルツロース」がスポーツパフォーマンスの向上に有効である可能性を指摘する報告が増えている。しかし、イソマルツロース摂取後に、運動中のエネルギー基質がどのように変化するのかは、必ずしも明確になっていない。また、イソマルツロース摂取が安静時血糖やホルモン分泌に及ぼす影響はよく研究されているが、スポーツアスリートでの研究報告はいまだ限られている。さらに、持久系スポーツで問題になりやすい消化器症状への影響も十分には明らかになっていない。

 このような状況を背景に本論文の著者は、イソマルツロースの摂取が代謝やホルモン分泌、スポーツパフォーマンス、消化器症状などに及ぼす影響を、グルコースまたはマルトデキストリンと比較する研究を行った。

イソマルツロース、グルコース、マルトデキストリンの3条件で比較

 研究の対象は、レクリエーションレベルの男性ランナー21名。年齢は26.2±
5.8歳、身長179.2±5.0cm、体重70.3±5.9kg、VO2peak59.5±6.0mL/分/kg。研究デザインは、二重盲検無作為化クロスオーバー法。

 まず、VO2peakとトレッドミルによる最大走行速度を評価し、それに続いて、イソマルツロース、マルトデキストリン、グルコースのいずれかを摂取後にいかに示す試験を実施。3日以上のウォッシュアウト期間を経て、他のドリンクを摂取して同様の試験行い、1人に対し計3回試行した。研究参加者と試行担当研究者は、ともに試験条件(摂取したドリンク)を知らされていなかった。

 試験の前日は栄養摂取量を、エネルギー量35kcal/kg、脂質0.9g/kg、炭水化物5.2g/kg、タンパク質1.5g/kgに統一した。研究期間中のサプリメント摂取は禁止した。

 3条件のドリンクの用量はいずれも400mLとし、イソマルツロース、マルトデキストリン、グルコースのいずれも50gを溶解させたものを使用。それらを摂取後に、トレッドミルを用いて70%VO2maxの強度で60分間行い血糖やホルモン分泌の変動を評価、それに続いて85%Vo2maxで疲労困憊に至るまでの時間を測定した。

インスリンやインクレチン分泌に有意差が生じるも、疲労困憊に至る時間は同等

 試験結果をエネルギー基質の変化、血糖変動、ホルモン分泌への影響、パフォーマンスへの影響、消化器症状の順に紹介する。

エネルギー基質で差はないが、血糖変動はイソマルツロース条件が最少

 まず、エネルギー基質に関しては、脂質と炭水化物の酸化速度で条件間の差はみられなかった。また、呼吸交換比率(RER)やVO2も差がなかった。

 血糖値は、運動負荷開始時点において、イソマルツロース摂取条件ではマルトデキストリン摂取条件に比較して-16.7%(95%CI;-21.8~-11.6)有意に低く(p<0.001)、グルコース摂取条件に比べても-11.5%(95%CI;-17.3~-5.7)有意に低かった(p=0.001)。運動負荷中の血糖変動幅はイソマルツロース摂取条件では、他の2条件に比較し有意に少なかった(p<0.001)。

イソマルツロース摂取条件ではインスリンに加え、GIPの分泌も抑制される

 運動負荷開始時点のインスリン値は、イソマルツロース摂取時要件がマルトデキストリン 摂取条件に比較し-40.3%(95%CI;-50.6~-30.0)有意に低く(p=0.001) 、グルコース摂取条件との比較でも-32.6%(95%CI;-43.9~-21.2)有意に低かった(p=0.012)。

 さらに、インクレチンの一種であるGIP(Glucose-dependent insulino-
tropic polypeptide)も、インスリンと同様の違いが認められた、具体的には、イソマルツロース摂取条件ではマルトデキストリン摂取条件に比較し-69.1%(95%CI;-74.3~-63.8)有意に低く、グルコース摂取条件との比較でも-55.8%(95%CI;-70.7~-40.9)有意に低かった(いずれもp<0.001)。

パフォーマンスや消化器症状は有意差なし

 パフォーマンスへの影響は前述のように、70%VO2maxで60分間の運動に続く85%Vo2maxでの負荷で疲労困憊に至るまでの時間で評価した。その結果、イソマルツロース摂取条件では9.22±4.37分、マルトデキストリン摂取条件では8.70±3.28分、グルコース摂取条件では9.25±3.50分で、条件間に有意差はなかった(p=0.876)。また、消化器症状(胃腸の不快感)も条件間で差はなかった。

イソマルツロース利用ガイドライン策定に向けて、さらなる研究を

 著者らは、これまで報告されているイソマルツロースによるパフォーマンスへのプラスの影響が本研究では認められなかった点について、「消化器症状の発生を避けるために設定した50gという用量が十分でなかった可能性がある」と考察。そのうえで結論を以下のようにまとめている。

 「50gのイソマルツロースの摂取は、マルトデキストリンやグルコースの摂取と比較して、血糖、インスリン、GIPの応答に関して有利な影響を及ぼすとみられる。ただし脂質と炭水化物の酸化率は条件間で差がみられなかった。またパフォーマンスや胃腸の不快感への影響もみられなかった。イソマルツロースのプラスの影響を最大化するために、用量、摂取タイミング、摂取頻度等を示した具体的なガイドラインの策定に向けて、さらなる研究が必要とされる」。

文 献

Notbohm HL, et al: Metabolic, hormonal and performance effects of isomaltulose ingestion before prolonged aerobic exercise: a double-blind, randomised, cross-over trial. J Int Soc Sports Nutr. 2021 May 17;
18(1):38.

コメント

 若年の男性ランナー21名を対象に二重盲検無作為化交差試験にてイソマルツロースのランニング前の摂取がランニング中の糖・脂質代謝、インクレチンホルモンの分泌、胃腸の不快感およびランニングパフォーマンス(疲労困憊までの運動継続時間)に及ぼす影響を検討した貴重な研究である。
 運動とイソマルツロースに関する先行研究と同様の研究デザインを用いた研究であるが、より運動中のエネルギー消費量が大きい走運動を用い、インスリンの分泌能を評価するインクレチンの一つである胃抑制ポリペプチド(GIP)を測定している点が新しい試みである。
 3種類の試験飲料(イソマルツロース、マルトデキストリン、グルコース)摂取30分後の血中のグルコース、インスリン、GIP濃度について、イソマルツロース試行で低値を示したが、60分間の定常負荷運動中の糖質・脂質酸化量および血中グルコース濃度に試行間で差は認められたかったことに対し、著者らは、「健常者では、血中に循環しているグルコースの約90-95%が速やかに取り込まれ代謝される」と文献を用い理由を述べている。アスリートを想定した場合、1日の中で複数回のトレーニングを実施することもあるため、イソマルツロースを含む食事後の運動において、どのような代謝変動を示すか検討することも今後、望まれる。
 また、60分間の定常負荷運動中の糖質・脂質代謝の応答において、3試行間の飲料で差異が認められなかったことや使用したイソマルツロースの摂取量が多くなかったことを運動パフォーマンスに影響を与えなかったと結論づけているが、イソマルツロース飲料摂取後から60分間の定常負荷運動中までのグルコースの変動について、最もグルコース濃度の変動が小さかったことを確認している点がとても興味深い点である。
 運動中の急激なグルコース濃度の変化は糖質・脂質代謝において好ましくないため、イソマルツロースの運動前の摂取の有用性を示した研究結果である。

(宮下 政司、早稲田大学スポーツ科学学術院 運動代謝学研究室 教授
スローカロリー研究会 理事)
(2021年06月 更新)
(2021年06月 公開)
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