スローカロリー商品の開発ーインタビューシリーズ➊
エネルギー補給食としての羊羹から進化した「スポーツようかん」ー和菓子の老舗 井村屋がめざすスローカロリー

 糖質は、私たちが生きるために必須なエネルギー源であり、思考や活動の中心的な役割を果たしています。スローカロリーとは、糖質をゆっくりと消化吸収させることで、急激な血糖変動を抑え、内臓脂肪の蓄積を防ぎ、エネルギーを持続させる食の考え方です。
 和菓子は日本人の食生活を彩り、私たちの文化を補ってきた伝統食といっても過言ではありません。糖質制限など、糖質が注目される中、最近では、糖質の"質"に着目した新しいコンセプトの和菓子が登場しています。

 「えいようかん」や「スポーツようかん」と、新たな取り組みを続ける井村屋株式会社の開発部 荻原佳典氏、商品営業企画部の土田麻依氏に、老舗和菓子屋がめざすスローカロリーについて、当研究会宮崎 滋理事長と樫村淳理事、司会は宮坂清昭でお話を伺いました。

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―井村屋様は創業が1896年の和菓子の老舗ですが、現在はカステラや羊羹、デザート、冷菓などを幅広く手掛けていらっしゃいます。その幅広い商品群のなかから本日は、スローカロリーの特性を活かして開発された羊羹「スポーツようかん」を中心に、お話を伺ってまいりたいと思います。まずは、「スポーツようかん」が誕生した背景を教えていただけますか。

荻原 もともと井村屋は羊羹の製造から始まりました。羊羹は創業以来の礎で、明治時代には保存食として重宝され、昭和の戦後には高度経済成長のもとでは、単なる嗜好品でなく、手軽に高いエネルギーを補給できるという機能性に注目されるようになりました。歴史を紐解くと、南極観測船「宗谷」にも当社の羊羹が積み込まれて、隊員の方の嗜好とエネルギーを満たすのに活用されたと聞いております。 私たちには、そのような創業以来のDNAが今も息づいており、時代の変化を捉えて新たなニーズに対応した羊羹の開発を続けています。

 そうした中、スポーツ人口が拡大しているという記事を読みました。以前から当社には「ミニようかん」という小サイズの羊羹を販売していたのですが、それをスポーツ中のエネルギー補給に活用できるのではないかと考えたのが、商品化の始まりです。

 最初に商品化したのは、グラニュー糖を用いた羊羹でした。しかし、ちょうどそのころ、イソマルツロース(パラチノース)を用いることで、エネルギーをゆっくりと吸収させて長時間、適度な血糖状態を維持できるようになるという知識を得ました。それを「ミニようかん」に用いれば、長時間のトレーニングを行っているアスリートのトレーニング中や競技中のエネルギー補給に、より適した商品になると思い当たったという経緯です。

―「スポーツようかん」はパッケージの形状も工夫とれていて、片手がふさがっていてもギューッと押し出して食べられますね。スポーツをしながら食べるというシーンを想定されて、よく考えられているなと感じます。開発の際に苦労された点があればお聞かせください。

荻原 一つは、1本のエネルギー量をどれぐらいに設定するかということです。
 グラニュー糖のみを使用して商品化した60gの羊羹は約170kcalでした。それに対して新たに開発する羊羹は、40gで113kcalとしました。先ほど申しましたように、先行商品を発売した後にスローカロリーという知識を得て、単に糖質を高めたのでは持久系スポーツではパフォーマンス向上につながらないという点を重視し、即効性糖質(ショ糖)と持続性糖質(パラチノース®)のハイブリット型にしました。

 そして、「おいしい」「長時間、適度な血糖状態を維持できる」ということ以外に、パッケージの工夫として「走りながらでも食べやすい」の機能性を加えました。この二つがうまく組み合わさり、高付加価値を達成できたのではないかと思います。

スローカロリーとスポーツようかん

―スポーツようかんが、実際に活用されている事例や実績などの情報をお聞かせください。

SCR_imuraya02.png 土田 都市型マラソン大会などのイベントで物品提供をさせていただいています。昨今はコロナ禍でその機会が激減していますが、マラソンに限らず、自転車競技やゴルフなど、競技時間の長い他のスポーツイベントへと幅を広げているところです。

 一方、コロナ禍での巣ごもりでのニーズ開拓も進めています。適度な血糖値を長時間維持できるという点は、スポーツだけでなく、脳にも良いと考えました。「おうち時間」に頭を使う作業が増えている方も多いと思いますので、そこを狙っています。

 そのような活動の一環として今、棋士の方に使い始めていただいています。将棋の対局中、からだはあまり動かしませんが、長時間、頭をフル回転させて血糖を消費すると思いますので。棋士の方からは、「美味しいし、良いカロリー補給になる」と言っていただいています。

宮崎 スポーツや将棋の対局などに活用できるという事例を上げていただいていますが、実際にどの程度、血糖変動への影響を期待できるのでしょうか。

荻原 以前、食後の血糖値変化をミニようかんとスポーツようかんで評価したことがあります。スポーツようかんはミニようかんと比べ血糖値上昇は緩やかですが、ある程度の時間が維持されておりロングディスタンススポーツに適していることがわかりました。

宮崎 なるほど。それもエビデンスの一つですね。ただし今は、血糖値を非侵襲に近い方法で連続的に測定できる機器があります。それを使ってスポーツ中の血糖変動の違いを明らかにしていただきますと、説得力がかなり強くなるのではないかと思います。 と言いますのは、例えば、食後のインスリン分泌増加のためにグリコーゲン合成が亢進している状況で運動をしますと、血糖が下がることが多いのです。ですから、今お話しいただいたデータでは、通常の羊羹では食後に急峻な血糖上昇が認められたとのことですが、運動をした場合はそうでないかもしれません。そのような状況下においても、「スポーツようかん」で血糖変動が抑制されるといったデータが出るのか、非常に興味があります。

荻原 ご指摘ありがとうございます。医療で使われている連続血糖測定システムのような高精度のものでなくても、新しいスマートウォッチには血糖の推算値の算出機能があるようですので、さまざまな条件での検討を以前より行いやすくなっていると思います。運動強度を変えたりしながら、血糖変動への「スポーツようかん」の影響を確認してみたいと考えています。

宮崎 期待しています。気づいたことがもう一点ありまして、それは高齢で血糖値が高めの方への応用です。高齢の方は食後血糖が上昇しやすく、それを薬剤で下げようとしますと低血糖のリスクが高まります。最近、認知機能やフレイルとの関連から、高齢者の低血糖を極力減らす努力が求められるようになりました。「スポーツようかん」のもつ、血糖を上げ過ぎずに下がり過ぎも抑制するという特性は、高齢の糖尿病患者さんにも非常に適しているように感じました。

―フレイル対策としてのスローカロリーという視点は新鮮で、たいへん興味深いです。血糖を上げ過ぎずに、それでいてしっかりエネルギーを摂取でき、低栄養の予防につながるとの期待がもてます。少しスポーツ領域での話に戻りまして、「スポーツようかん」を利用された方の感想などを教えてくださいますか。

土田 長時間のエネルギー補給にメリットを感じるというお話はよくお聞かせいただいております。最近ではプロゴルフの福田真未選手やサッカーの横浜FCの選手にも、トレーニングやプレー前に食べていただいております。「以前はカステラなどを食べていたけど、この羊羹に変えてすごく効果を感じている」という言葉もいただいています。

―プロのアスリートは真剣勝負ですから、試合前に自分が好きなものを食べて気持ちを高めたいという要求もあるかと思います。羊羹を食べることがルーティーンになっているアスリートもいるのではないかと感じました。ところで、羊羹の素材は小豆から作られる餡子と寒天ですね。どちらも食物繊維が豊富だと思います。また小豆に関してはタンパク質も豊富ですね。井村屋様は長年このような素材を使っていらっしゃいます。これらの食材の研究上のトピックなどお聞かせくださいますか。

小豆とレジスタントスターチ

荻原 小豆には食物繊維が豊富に含まれています。特におもしろいのは、水分を除いた固形分中(乾物換算値)の小豆で比較すると、100g中の食物繊維量は茄でる前は21.1gでしたが、茄でた後は33.5gにもなり、茄でることによって5割以上も増加したことになります。これは小豆に含まれるデンプンが、茄でることにより「人の消化酵素で消化されにくい食物成分」、すなわち難消化性デンプンに変化したからと考えられます。

 この消化吸収されない難消化性デンプンは、便秘の予防や解消には適しています。一方で、スポーツパフォーマンスという点ではエネルギーにならないので、余計なものと捉えられるかもしれません。しかし、このでんぷんにも血糖の急峻な上昇を抑制する働きを期待できると考えています。

 参考便秘解消 | あずきについて | 井村屋株式会社 (imuraya.co.jp)

宮崎 難消化性デンプンが含まれているために、糖の吸収がさらに先送りされている可能性があるということですね。そうすると、例えばアイデアとして、難消化性デンプンやイソマルツロースの配合を調整することで、安定した血糖が維持できる時間を変えることはできないでしょうか。マラソンを例にとると、トップアスリートであれば2時間強で完走するのに対して、ハイアマチュアでは3時間ぐらい、レクリエーションレベルでは4時間ぐらいと、走行時間が大きく異なります。スポーツ栄養士の先生のお話を伺いますと、4時間走るために多めに糖質を摂取しておこうという戦略をとると、逆にパフォーマンスは落ちるそうです。ですから、効果を期待できる持続時間の異なるラインナップをそろえるという方法もあるのではないかと。

荻原 そのような視点には今まで気づきませんでした。確かにたいへん面白い視点ですね。

これからの羊羹市場

―単に血糖を上げたくないだけであれば、低カロリー甘味料などを使えば良いのですね。そうではなく、必要な糖をしっかり摂りながら血糖の変動を抑制する、スローカロリーの考え方を発展させた新たな可能性を示すアイデアと感じました。一方、社会には「甘い物は悪だ」として、糖質摂取の重要性を軽視する風潮も一部にあります。そのような社会的な流れを踏まえたうえで、これからの展開をどのようにお考えになっていらっしゃいますか。

荻原 人々が菓子や嗜好品にどのくらいお金を使っているかを調べますと、ケーキは30歳未満が最も多く、年間約1万円使っています。それに対して羊羹は、30歳未満の場合、約100円です。ようかんは70歳以上が最も多いのですが、それでも1,000円程度に過ぎません(表)。

 一方、当社の羊羹の売り上げだけで考えてみると、新しいお客様へ向けた機能性タイプの羊羹を発売したことで成長しています。ここから言えることは、羊羹にはまだ新たな可能性が残っているということです。その一つがスポーツする人に向けたおいしい糖質補給菓子「スポーツようかん」だったということです。ですから、まだまだニーズは開拓できると考えています。

SCR_imuraya03rr.png 宮崎 羊羹のタンパク質含有量は、どのくらいでしょうか。

荻原 20%程度です。だいたい60%弱が炭水化物です。

宮崎 そのタンパク質は植物(小豆)由来ですね。ということであれば、サルコペニアの予防にも適しているという言い方もできるのではないでしょうか。今お話しいただいたように、羊羹を最も買われているのは高齢世代ということで、サルコペニアリスクの高い方が多いと考えられます。そういう方に、適度な糖質補給による血糖の維持と同時に、アミノ酸スコアの高いタンパク質を摂ることができるというメリットは、小さくないように思います。「スローカロリー + α」ということです。 「スポーツようかん」として販売されているのですが、例えば、"アンチエイジング羊羹"というコンセプトも成立するのではないかと思いました。

荻原 いろいろなアイデアをお教えいただき、ありがとうございます。

―本日は、スローカロリーという考え方や、スローカロリー研究会に対して、井村屋様からたいへん期待していただいていることが理解できました。そろそろお時間ですが、樫村理事に本日のまとめをお願いしたいと思います。

樫村 「スポーツようかん」については私もよく存じ上げていたのですが、今日のお話を拝聴して、栄養機能として非常に優れたものであることを再認識いたしました。これまでスローカロリーという特徴ばかりに注目していて、宮崎理事長が指摘されたタンパク質が豊富という点には、新たな可能性を感じました。

 食物繊維が豊富という点にネガティブな側面があるというお話もございましたが、その点もむしろ逆転の発想でポジティブな捉え方ができるのではないかと思います。いろいろ勉強になりました。ありがとうございました。

(本インタビューは2021年12月にオンラインで行われました)

(2022年03月 更新)
(2022年03月 公開)
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