第7回年次講演会特別講演②(Web講演会)
●テーマ:「食後高血糖とスローカロリー」
●公開:2021年3月21日~
●特別講演②:「運動とスローカロリー:血糖コントロールの重要性」宮下政司先生(早稲田大学スポーツ科学学術院運動代謝学研究室准教授)
異なるGI食品摂取後の運動時の代謝
宮下先生は、講演冒頭で、運動にグリセミック・インデックス(GI)が低くスローカロリーである「低GI食品」を応用することにより得られる理論上のメリットをリストアップした。
低GI食により摂取後の血糖上昇が抑制され、その後の運動中に適度な血糖レベルが維持されることや、インスリン分泌を過度に刺激しないため運動中脂質分解が抑制されにくく、グリコーゲンの温存につながり、パフォーマンスが向上する可能性を指摘。そのうえで、それらを実証したエビデンスをいくつか取り上げ解説。
例えば、男性アスリートを対象としたクロスオーバー試験では、運動前に低GIの食品を摂取した場合、高GIの食品に比べて運動中の血糖値が高値で維持され、かつ、遊離脂肪酸や呼気ガスで評価した脂質酸化レベルが、低GI食品摂取後の運動時に高値だったという。
これは、高GI食摂取後に比較して運動中の脂質代謝が亢進していることを示していると考えられ、グリコーゲンの温存を表している可能性があるとのこと。この研究では、結果として、低GI食摂取後のほうが、疲労困憊までの時間が延長されていた。
運動後における代謝や食欲との関係
アスリートの体づくりにとって運動後の食欲維持は重要である。トレーニング終了後、できるだけ早く炭水化物、タンパク質を中心とする食事を摂取することが、筋グリコーゲン合成に重要とされる。しかし実際には高強度のトレーニングによって食欲が低下してしまい、十分に食事をとれないアスリートがいるという事実に言及。そのメカニズムとして、消化管の血流減少による機能低下や、食欲刺激ホルモンであるグレリン分泌の低下などの影響が想定される。
これに対し宮下先生の研究グループでは、温かい飲み物を摂取することで胃の収縮が増加し、胃内容の排出が促進されるという先行研究に着目。健常男性を対象に、運動負荷後に冷温、常温、高温(60℃)の飲料を摂取するという3つの条件でのクロスオーバー試験を実施した。
その結果、60℃の飲料を摂取後は他の条件に比較し胃幽門部収縮回数の有意な増加が認められ、さらにビュッフェ形式での自由摂取時の摂食量が有意に増大したという。また、浸透圧の違いも食欲に影響し、浸透圧の低い飲料のほうが胃の活動が亢進し摂取エネルギー量が増えるとのことである。
このほか講演では、運動量が同等であれば一度に行うよりも、何回かに分けて行ったほうが、血糖管理上のメリットが大きい可能性など、スローカロリーの話題を中心としつつ、運動と血糖に関する最新の知見を紹介した。
「運動とスローカロリー:血糖コントロールの重要性」まとめ
宮下先生は、今回の講演である、GI食品摂取後の「運動時の代謝」「運動パフォーマンス」「運動後の代謝と食欲との関係」について、以下のようにまとめた。
- 運動前の低GI食品の摂取により運動時のグルコースが維持され、脂質代謝を 亢進させる。
- 運動前の低GI食品の摂取により運動パフォーマンスの向上が示唆されている。
- 代謝や食欲の観点も考慮しながら、運動後の食事の質(GIの種類)等に留意 することが肝要である。
(スローカロリー研究会事務局)
(2021年04月 公開)