2021年4月22日
一般社団法人スローカロリー研究会第7回年次講演会(3月21日~4月22日)のスローカロリー関連企業報告より、「医療分野におけるパラチノースの活用事例」をお届けしています。 医療においては、代謝性疾患のリスク管理における食事療法でのスローカロリーの有用性が近年注目されていますが、そのほかにも、約20年も前から既に活用されている医療領域があります。 それが、疾患の急性期や周術期、あるいは脳卒中などのために嚥下が困難な患者さんなどに対して行われている経腸栄養です。 本講演では、株式会社明治マーケティングソリューション部の殿内秀和氏が、 まず経腸栄養について概説し、続いて、スローカロリーの特徴を生かした同社のインスローを用いた経腸栄養管理の事例を紹介しています。
2種類の投与経路と、2タイプの栄養剤
経腸栄養は、鼻にチューブを通す(経鼻)、もしくは胃に直接穴を開けて(胃瘻)、チューブを通し、そのチューブから流動食等を投与して栄養管理を行う二つの方法に大別される。前者は短期間の経腸栄養管理、後者は経腸栄養管理が長期になる場合に用いられ、国内で100種類以上の経腸栄養剤が使われている。
経腸栄養の主な対象者は、消化管が正常に機能しているものの、何らかの原因により口からの栄養摂取が難しい人。例えば手術後や急性期の患者さんでは、術後に経口摂取が可能になるまで、経腸栄養を行って栄養管理を行う。
また、脳卒中などで摂食嚥下機能に障害が生じた患者さんの栄養管理方法として実施される。
その経腸栄養剤は大きく2タイプに分けられ、一つは「汎用流動食」で、もう一つは「高機能流動食」である。前者は一般的な栄養管理に適した栄養組成で、同社はメイバランスシリーズを販売している。
後者の同社インスローに代表される高機能流動食は、特別な栄養管理が必要な患者の栄養管理を目的に利用される。
インスローとスローカロリー
インスローの最大の特徴は、糖質成分としてパラチノースを用いることで、糖質の吸収速度をゆっくり、スローカロリーにしていることにある。
パラチノースは、スクロース(ショ糖)と同様、グルコースとフルクトースが結合した二糖類ながら、消化吸収速度はスクロースの約5分の1である。投与後の血糖値の上昇が穏やかになり、かつ投与後長時間、ある程度の血糖レベルが維持されると期待できる。
経腸栄養剤は一般に投与後の吸収が早いため、急峻な血糖上昇とそれに続く反応性低血糖が起こりやすい。スローカロリーにすることでそれが抑制される。インスローは、すなわち、スローカロリー経腸栄養剤といえる。
なお、同社ではパラチノースを用いたスローカロリーの理論を医療や健康リスク管理に生かす活動を'Low Glycemic Index Concept'、略して「LoGIC(ロージック)」と呼び、啓発に力を入れている。
慢性期医療におけるインスローの活用
スローカロリー経腸栄養剤としてのインスローが実臨床において有用であることのエビデンスが2報紹介された。
一つめは慢性期医療において、比較的長期にわたりインスローの有用性を、汎用タイプの経腸栄養剤を対照として比較した研究報告である1)。
研究対象は、経腸栄養管理下でインスリン療法が施行されている2型糖尿病患者6名(平均年齢76.2±7.6歳)。同社の汎用タイプの(スローカロリーでない)経腸栄養剤を4週間使用した後、経腸栄養剤をインスローに変更して4週間投与した。インスロー投与4週後の血糖変動やインスリン投与量を、汎用タイプの経腸栄養剤投与4週後のデータと比較検討した。対象症例は、基礎インスリンとしての中間型インスリン製剤を1日1回と、食後血糖管理のため超速効型インスリン製剤を1日3回投与する、Basal-Bolus療法が行われていた。
まず、インスリン投与量の変化をみると、経腸栄養剤切り替え前は、中間型インスリンが7.7±1.1U、切り替え後は5.3±1.0U、超速効型インスリンは同順に、27.3±3.7U、23.3±4.32Uであり、いずれも有意に減少していた。また、インスリン投与量が減少していたにもかかわらず、朝食、昼食、夕食後の血糖値は、切り替え後に有意に低下していた。
さらに、インスローに切り替え後、インスリン混合製剤を用いてインスリン投与回数を4回から2回に減らして管理可能か検討した。その結果、早朝空腹時血糖のみ有意に上昇したが、その他の食前・食後の値は有意な変化が生じなかった。この結果が得られた理由として、今回の検討症例6名の尿中CPRが平均で47.8±9.7μg/dayであり、内因性インスリン分泌が比較的保たれていたことが考えられた。
HbA1cの変化をみると、ベースライン時が6.4±0.6%であり、汎用タイプの経腸栄養剤による介入4週間後は6.5±0.6%、インスローに切り替えた4週間後には6.3±0.6%と汎用タイプの経腸栄養剤投与4週後と比較して有意に低下し、さらにインスロー投与8週間後も有意差が維持されていた。また、総コレステロールも同様に、インスローに切り替えた4週間後から有意な低下が認められた。 体重変化に有意差は見られなかった。また、下痢などの消化器症状や低血糖などの副作用はみられなかった。
以上の結果から著者は、インスローはインスリン使用中の2型糖尿病患者の食後過血糖を改善し、インスリン必要量も減少させ、さらに脂質代謝にも好影響を与えることを示唆し得たと考察しているという。
急性期医療におけるインスローの活用
一方、急性期医療におけるインスローの有用性も報告されている2)。
この研究の対象は、食道切除後に高血糖(150mg/dL)を呈したICU患者8名。汎用タイプの(スローカロリーでない)経腸栄養剤を用いる群と、インスローを用いる群に無作為に群分けし、経腸栄養ポンプを用いて16時間投与した。8時間のウォッシュアウト後、経腸栄養剤を切り替えてさらに16時間投与する、クロスオーバー法で検討された。
その結果、インスローを用いた時の血糖値は、投与開始3時間後以降、投与終了まで、通常タイプ経腸栄養剤を用いた時よりも、有意に低く推移した。血糖値の最高値は、汎用タイプを用いた時が206 mg/dLであるのに対し、インスローを用いた時は181mg/dLであり、有意に低かった。また平均血糖値は同順に176 mg/dLおよび162mg/dLであり、やはり後者が有意に低かった。
投与中の血糖値が180 mg/dLを超えた患者数は、汎用タイプ投与時が7人(87.5%)、インスロー投与時が3人(37.5%)であり、やはり両群間に有意差が見られた。低血糖などの有害事象は認められなかった。
以上の結果から著者は、短期間ではあるが、食道切除後のICU入室を要する急性期の患者において、インスローが安全であり、血糖管理上有用な可能性が示唆されたと考察しているという。
まとめ
殿内氏によると、医療分野でのインスローに関するエビデンスは、これらのほかにも多数の報告があるとのことだ。また、同製品は発売から約20年という長い歴史もあり、同じカテゴリーに含まれる流動食の中で現在、インスローがシェアトップだという。同氏は「パラチノースは、病院や施設に⼊院・⼊所されている患者さんの栄養管理に、⻑きにわたり貢献してきた糖質だと考えている」と述べ、報告を結んだ。
■引用文献1)上原昌哉:日本病態栄養学会誌 10(3), 281-285, 20072)Egi M, et al:J Crit Care 25(1), 90-96, 2010
(スローカロリー研究会事務局)
(2021年04月 公開)