和食とスローカロリー
家森 幸男 先生
武庫川女子大学国際健康開発研究所所長・教授、スローカロリー研究会 顧問
Part1 WHO世界共同研究でわかった和食の特色
今から40年前の1983年、家森先生の働きかけでスタートした世界保健機関(WHO)共同研究では、世界各国の食品や栄養素の摂取量と疾患リスクとの関係が検討されてきています。講演では、例えば、東欧の長寿国、ジョージアの人々はヨーグルトをよく摂取するために食生活がスローカロリーになっていることなど、WHO共同研究から明らかになった、多くの知見が紹介されます。
長寿国日本の和食はというと、大豆製品と魚介類の摂取量が多いことで特長づけられます。大豆イソフラボンは女性ホルモンに似た働きがあり、血管内皮機能を保護して血栓による病気を防ぎ、また大豆はスローカロリー効果もあわせもっていることも示されています。(収録時間20:13)
Part2 スローカロリーの和食を健康長寿に生かす
講演の後半では、大豆と魚介類が多いという和食の特徴を生かした健康長寿戦略について語られます。
大豆製品と魚介類の摂取量が多い人は、そうでない人に比べてインスリン抵抗性が低くて血糖値が基準値内の人が多く、HDL(善玉)コレステロールが高いなど、さまざまな健康指標が良好であり、一方、唯一の注意点は、食塩摂取量が多くなりがちなことだとのことです。また大豆にも多く含まれている葉酸は、認知機能の保護に大切であることが近年わかってきました。
最後に、ブラジルの日系人を対象に行われた、イソマルツロースによるスローカロリー介入研究が紹介され、スローカロリーによって血圧低下と内臓脂肪面積減少が認められたことが示されます。(収録時間15:34)
動脈硬化リスクとしての食後高トリグリセリド/TG血症を考える
田中 明 先生
女子栄養大学 名誉教授、スローカロリー研究会 理事
Part1 レムナントは食後高脂血症の有用な指標
スローカロリーの研究は主に、食後高血糖の抑制をテーマに続けられていますが、血糖だけでなく中性脂肪(トリグリセリド)も「カロリー」として使われます。その中性脂肪は血糖値と同じように、食後に高くなります。近年、動脈硬化疾患のリスク因子としての食後高中性脂肪血症の重要性に対する認識が高まり、昨年改訂されたガイドラインでは初めて、中性脂肪の非空腹時(随時)の上限値が設定されました。
講演前半では、食後高中性脂肪による動脈硬化のメカニズムが解説されます。ポイントは「レムナント」。インスリン抵抗性のために食後高血糖になっているような状態では、このレムナントも高い状態にあり、動脈硬化を引き起ことのこと。そのため、レムナントが食後高脂血症の有用な指標であることが解説されます。(収録時間12:03)
Part2 レムナントとインスリン抵抗性・動脈硬化促進
LDL(悪玉)コレステロールは、酸化変性を受けて血管壁に取り込まれ動脈硬化を引き起こすのに対して、レムナントはそのまま取り込まれて動脈硬化を引き起こします。実際に、外因性(食事由来)のリポ蛋白「カイロミクロンレムナント」のアポ蛋白である「アポB48」が、ヒトの動脈硬化プラークで見つかっているとのことです。
さらに、内因性(肝臓由来)リポ蛋白「VLDL(超低比重リポ蛋白)」のアポ蛋白とされている「アポB100」が、実は腸管の粘膜にも発現していることがわかったのです。つまり、食事による脂質の負荷がレムナントを二重の経路で増やして動脈硬化を惹起していると考えられ、脂質代謝の面でもスローカロリーの重要性が注目されます。(収録時間16:02)