第8回年次講演会(Web講演会)
●テーマ:「スローカロリーとフレイル/サルコペニア」
●公開:2021年3月1日~
高齢者のフレイル/サルコペニアと栄養
大内 尉義 先生国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 顧問東京大学 名誉教授 Part1 フレイル・サルコペニアの現状(収録時間21:05)
フレイルとは、言わば要介護予備群であり、健康寿命が尽きてしまう一歩手前の状態といえます。実際、フレイルの該当者は要介護認定や認知症発症のリスクが高いことが報告されています。しかしフレイルの重要な点は可逆性がある、すなわち、もとに戻ることができるということにあります。だからこそ早期に介入が重要とされています。大内先生によると、早期介入効果のエビデンスはまだ限られてはいますが、サルコペニアや認知機能が改善するという明るいデータが得られ始めているとのことです。
Part2 フレイルを予防するには(収録時間11:23)
では、フレイルを予防するにはどのような介入が有効なのでしょうか?Part2では、栄養と運動という二点について、これまでに明らかになっている知見が紹介されます。栄養に関しては、タンパク質摂取の重要性が明らかになっており、タンパク質摂取量が多いほど運動時の筋タンパク合成が高まりフレイル予防に有利と考えられています。しかし一方でフレイルは高齢者に多く、加齢や慢性疾患のために腎機能が低下している人が少なくありません。フレイル予防のためにタンパク質摂取を増やすべきか、腎保護のためにタンパク質摂取量を制限すべきなのか。大内先生は「栄養摂取の考え方は年齢により変わる」と解説を続けます。
Part3 スローカロリーとフレイル(収録時間8:17)
Part3では、栄養や運動以外の重要なポイントが解説されます。そのポイントとは「人とのつながり」です。エビデンスの一例として、運動習慣がありながら文化活動や地域活動に参加していない人は、運動習慣がないながらも文化活動や地域活動に参加している人に比べて、フレイルリスクが約3倍高いというデータが紹介されます。続いて、肥満でありながら脂肪筋などのために筋肉量が低下している状態であり、とくに身体的フレイルとの関連する「サルコペニア肥満」の重要性を取り上げられます。そして、講演の最後ではスローカロリーとフレイルの関連の話題も紹介されます。
現代人の栄養障害対策~スポートロジーを生活習慣病の予防や治療に活用しよう~
河盛 隆造 先生順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学
同 スポートロジーセンター長
Part1 スポーツを学問に! スポートロジーで健康長寿を(収録時間17:35)
スポートロジーはアスリートのための医学ではなく対象は一般生活者で、スポーツをすることによる代謝・心血管疾患やメンタルヘルスへの影響を学問として捉えるというものです。
Part1では、標準体重者のメタボリックシンドローム、若年者のサルコペニアやフレイルの存在など、従来の医学的な定義を覆すようなデータが次々に示されます。
河盛先生は研究テーマは尽きないが、しかしスポートロジー研究の究極の目標は認知症の防止、そして健康長寿にあると語ります。
Part2 認知機能低下抑制における運動の重要性~文京ヘルススタディ(収録時間11:34)
Part2では、文京区在住の高齢者1,629人を対象に行われている「文京ヘルススタディ」からの知見が紹介されます。
これまでに、運動習慣のある高齢者は、運動習慣のない高齢者に比べて認知機能が保たれていること、
ロコモティブシンドロームの判定結果と認知機能が相関することなどが明らかになり、認知機能低下抑制における運動の重要性が示されています。
また文京ヘルススタディの特筆すべきこととして、測定可能な健康関連指標を網羅的に評価している点が挙げられます。
その結果、症候性脳梗塞のハイリスク状態であり、認知症リスクとの関連性も示唆されている無症候性ラクナ梗塞の有病率が、筋力の低下と関連しているという意外な事実がわかりました。
Part3 糖の流れを考えて、食後高血糖を正常化する(収録時間19:59)
Part3では、食後高血糖を正常化するための戦略が語られます。そもそも糖尿病という疾患はどのような疾患なのかという問いが、
「糖の流れ」によって解説されます。現在、高血糖による悪影響は血管障害として現れるものの、高血糖の原因であるインスリン作用不足のために
全身の細胞が糖を取り込めていないという状態は、高血糖を介さずに細胞や臓器の機能異常を来たすことがわかっています。そして、
「糖の流れ」を考えれば、食後の血糖値を抑制する戦略も、自ずと明らかになると語ります。インスリン分泌の遅延を見込んで時間をかけて食事を楽しむ、
最初にサラダを食べる、そして炭水化物は毎食しっかり適量を摂取するなど、改めて納得させられます。
パラチノース摂取が高齢糖尿病患者の血糖に与える影響~持続型血糖測定器を使用して~
西村 一弘 先生駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科 教授
社会福祉法人緑風会緑風荘病院 栄養室
糖尿病治療においては食事療法が基本となります。しかし高齢者では、近年のゼロカロリーや糖質オフというような食品群が低血糖、そして低栄養、 またフレイルのリスクになっている可能性があります。砂糖と同等のエネルギーを有する一方で、消化・吸収速度が遅いため食後血糖値の急激な上昇を抑える 性質を有するスローカロリーシュガー(パラチノース)が、高齢の糖尿病患者の血糖コントロールに与える影響が検討されました。 対象は介護老人保健施設に入所中の65~93歳の糖尿病患者12名で、スローカロリーシュガーと砂糖を使用した夕食後の血糖変動を持続型血糖測定器を用いて確認されました。 その結果、砂糖使用時と比較してスローカロリーシュガーを摂取することで、食後の血糖値上昇を緩やかにするという可能性が示唆されました。(収録時間16:38)
関連情報
■スローカロリー研究会第9回年次講演会
■スローカロリー研究会第7回年次講演会講演レポート
●"糖のながれ"を意識して、血糖値スパイクを防ぐ(河盛 隆造先生)
●運動とスローカロリー:血糖コントロールの重要性(宮下 政司先生)