一般社団法人スローカロリー研究会

「糖質オフ」と「スローカロリー」について

樫村 淳

一般社団法人 スローカロリー研究会
理事 樫村 淳
(DM三井製糖株式会社 ライフ・エナジー事業本部 事業開発部)

 私は長年、砂糖や糖質の研究開発に携わっており、栄養学的に栄養素としての糖質の重要性を知る機会が多く、昨今の「糖質オフ」や「脂質オフ」という言葉が独り歩きして、糖質や脂質を制限したら健康になれるかの様に、様々な食品で謳われていることに違和感を覚える一人です。どんな栄養素であっても、それが三大栄養素であっても、摂りすぎれば思わぬ弊害があることは栄養学を学んだことのある人には常識といっていいと思います。 

 栄養バランスという言葉がありますが、糖質を減らしたら、必然的に高たんぱく・高脂肪食になり、この栄養バランスが崩れることになります。 動物実験で高たんぱく・高脂質の飼料を長期間食べさせたら、どんな悪影響が出るかについては言うまでもありません。 

 一方、人間も含めた動物には、食事のバランスが少々悪くても、それを補う機能を持っており、栄養のバランスが悪くても表面上、悪影響が出にくいのも事実です。 人間の場合でも、栄養バランスのよい食事を食べられるようになったのは、比較的近年になってからであり、それまでの長い歴史の中では、その時食べられるものを食べて生き延びてきたといっても過言ではありません。 

 しかしながら、栄養バランスは何故重要かというと、栄養バランスの悪い食事を長期間続けると、やはり身体に負担が掛かることになり、結果として寿命が短くなることが報告されています。 

 例えば、カナディアンエスキモーと言われる民族の伝統的な食事は、野菜や果物はほぼ摂取することはなく、食事は狩猟で得たアザラシなどの肉や魚という典型的な「高タンパク・高脂質」を摂取しています。 彼らはガンや糖尿病にもなりにくいことが知られており、一見我々日本人より健康的にも見えますが、伝統的な食事だけでなくなってきた現在でも、平均寿命は70歳に届かず、周辺の住むカナダ人に比べて10年以上短いことが知られています。 

 もちろん、平均寿命の短さを食事だけの要因に結び付けるのは危険かも知れませんが、近年、極端な糖質制限がヒトの死亡リスクを高めるという信頼性の高い報告がいくつもされています。 

 一方、スローカロリーとは栄養バランスの良い食事や適正な量を摂取することを前提として、最大の栄養素である糖質の質に注目し、それを生活の中でコントロールするという考え方です。 体の中で、血液中の糖(ブドウ糖)は唯一、常に一定になるように厳格にコントロールされているものであり、生活の中で、例えば「野菜から先に食べる」・「血糖値を上げにくい食材を選ぶ」などの方法で、できるだけ血糖を自然にコントロールしようという取り組みでもあります。 

 是非皆様にスローカロリーの考え方を知ってもらい、実践してもらいたいと思っています。