糖尿病とスローカロリーを考える

6. 研究の概要

天然二糖類イソマルチュロース(パラチノースR)及びスクロースが健常人の血糖および
インクレチン分泌に与える影響

前田亜耶 1、2) 宮川潤一郎 1) 美内雅之 1) 永井悦子 1) 徳田八大 1) 楠 宜樹 1) 村井一樹 1)
勝野朋之 1) 浜口朋也 1) 原納 優 2) 難波光義 1)

1) 兵庫医科大学内科学糖尿病科 2) 児成会生活習慣病センター(ハラノ医院)

【対 象】

  • BMI 23以下(21.1±1.6 kg/m2)の健常男性10名

【糖負荷量】

  • パラチノース:50g/300 ml、スクロース:50g/300 ml

【測定項目】

  • 血糖、インスリン、グルカゴン、インクレチン(total GLP-1、active GLP-1およびtotal GIP)

【目 的】

  1. パラチノースとスクロースの血糖上昇作用、およびインクレチンホルモン分泌に与える影響を比較検討した。
  2. また、両糖の味覚に及ぼす影響についても比較した。

【背 景】

  • イソマルチュロース(パラチノースR)は、人工的に砂糖のα-1,2結合を転移酵素の作用によりα-1,6結合に作り替えた砂糖の構造異性体であり、自然界で蜂蜜中に微量含まれている。
  • 小腸で完全に消化吸収される4 kcal/gの糖質であり、小腸での分解速度が砂糖に比べ約1/5と遅い。また、α-グルコシダーゼの影響を受けにくい。
  • パラチノースRの甘味度はスクロースの1/2であるが、甘味の質は、砂糖に非常によく似ている。まろやかでスッキリしていて後味に異味がない。

【まとめ】

  1. パラチノース液負荷ではスクロース液負荷に比し、
    • 血糖値は摂取後15、30、60分において有意に低値を示し、血糖AUC0-60も有意に減少した。また、パラチノース液は60分、スクロース液では30分で頂値あり、スクロース液に比し有意な低値を示した。
    • 血中インスリン濃度は摂取後15、30分において有意な低値を示し、インスリンAUC15-60も有意に減少した。
    • 血中グルカゴンは摂取前後で両液群間に有意な変化は認めなかった。
    • 血中total GIPは摂取後15、30、60分において有意な低値を示し、total-GIP AUC15-90も有意に減少していた。
    • 血中total GLP-1及びactive GLP-1は摂取後90分においてのみ有意に増加し、total GLP-1とactive GLP-1のAUC60-120も有意に増加した。
  2. パラチノース液の味覚に及ぼす影響は、スクロース液に比べて
    • 甘さが丁度良い、
    • 美味しい、
    • 後味が良い
    との評価が得られた。

【結 論】

  1. 糖質の一部をパラチノースに置き換えることで糖質全体の吸収速度が緩やかになり、パラチノースはスクロースに比し食後の血糖上昇を緩やかにすることが可能である。
  2. パラチノース摂取によって、total GIPの初期分泌が有意に減少し、total GLP-1は後期相で有意に増加することが明らかとなった。
  3. パラチノースを食事の味付けや甘味料として使用することにより、膵β細胞への負担を軽減しうる可能性がある。

以上より、パラチノースはスクロースに劣らない甘味を有していながら、糖代謝と膵島機能にとっては、より有利な二糖類であると考えられた。

文 献
Effects of the naturally-occurring disaccharides, palatinose and sucrose, on incretin secretion in healthy non-obese subjects: J Diabetes Investig 2013; 4(3): 281-6.

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