【トピックス・文献紹介】イソマルツロースの食後血糖抑制作用は動脈硬化リスクを低下させる―摂取後の上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)がスクロースと有意差

 低GI甘味料のイソマルツロース(パラチノース)が動脈硬化進展リスクを抑制する可能性を示すデータが、ヒトを対象とする研究から報告された。スクロース(砂糖)摂取後には動脈硬化の指標の一つである上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)が有意に上昇したのに対し、イソマルツロース摂取後には有意な変化がみられないという。帝京科学大学 生命環境学部自然環境学科 総合教育センターの小林亮太氏らの研究結果であり、「Nutrients」に論文が掲載された。

血糖スパイクを抑えることによる動脈硬化抑制効果をヒトで検証

 食後高血糖をはじめとする血糖値の急峻な上昇、いわゆる「血糖スパイク」は、動脈硬化の独立した危険因子であることが知られている。反対に、食後血糖の上昇が穏やかな食生活は、動脈硬化のリスクを低下させると考えられる。

 食後血糖の上昇を穏やかにする方法の一つとして、スクロースに替えてイソマルツロースを利用する方法が挙げられる。イソマルツロースは蜂蜜に含まれる天然の糖であり、スクロースと同等の甘さながら食後血糖上昇指数(glycemic index;GI)が低いという特徴をもつ。

 これまでに、イソマルツロースの利用により食後の急峻な血糖上昇が抑制されることが多く報告されてきている。ただし、それが動脈硬化の進展抑制につながるのかは、まだ十分検討されていない。 小林氏らは、この点を明らかにするために以下の研究を行った。研究に際しての仮説は、「スクロースの摂取は動脈硬化の指標に影響を及ぼすのに対し、イソマルツロースの摂取は影響を及ぼさない」というものだった。

健康な成人を対象とするクロスオーバー法で検討

 研究の対象は、糖尿病や高血圧、筋骨格系疾患などのない健康な非喫煙者であることを適格条件として、同大学の近隣住民から募集された。20名が応募し、前記の条件を満たす10名(男性と女性が各5名)が研究に参加した。その10名は、年齢が62.8±4.4歳、BMI23.1±1.1、体脂肪率27.7±2.7%、収縮期血圧123.5±6.2mmHg、空腹時血糖値98.8±4.2mg/dL。

 研究デザインは、参加者全員にスクロース摂取条件、およびイソマルツロース摂取条件の両方を試行するクロスオーバー法。前夜からの絶食後に、スクロース25gまたはイソマルツロース25gを摂取してもらい、摂取前と摂取30分後、60分後、90分後に、血糖値、血圧、心拍数、上腕足首間脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity;baPWV)などを測定した。

 なお、baPWVは動脈硬化の指標の一つで、数値の高さは動脈血管壁の硬さを反映しており、高値であるほど動脈硬化リスクが高い状態と判定される。

イソマルツロース条件での血糖上昇抑制とpaPWV不変を確認

 それでは結果だが、まず、血糖と血圧の変動をみてみよう。

イソマルツロース条件での血糖値の有意な上昇は摂取30分後のみで観察

 摂取前の血糖値は、スクロース条件とイソマルツロース条件とで同等だった。

 スクロース条件では、摂取30分後(p<0.01)と60分後(p<0.05)にベースラインからの有意な上昇が認められた。一方、イソマルツロース条件では、ベースラインから有意に上昇したのは摂取30分後(p<0.05)のみだった。90分後までの血糖上昇曲線下面積(area under the curve;AUC)はイソマルツロース条件のほうが有意に小さかった(p<0.05)。

 次に血圧の変化をみると、スクロース条件の摂取90分後の収縮期血圧のみ、ベースライン比で有意な上昇が観察された(p<0.05)。一方、イソマルツロース条件では、ベースラインからの有意な変化はみられなかった。

baPWVはスクロース条件でのみ有意に上昇

 続いてbaPWVの変化をみてみよう。摂取前のbaPWVは両条件同等だった。 SCR Litera011422.png

 スクロース条件では摂取30~90分後のすべての時点でベースラインより有意に上昇していた(すべての時点でp<0.01)。それに対し、イソマルツロース条件では、すべての時点でベースライン値からの有意な変化がみられなかった。その結果、90分後までのbaPWVのAUCは、イソマルツロース条件のほうが有意に小さかった(p<0.01)。

 なお、摂取90分後のbaPWVは、スクロース条件とイソマルツロース条件でともに、収縮期血圧との有意な相関が認められた(r=0.640,p=0.046)。

 このほか、心拍数も測定されていたが、両条件ともに摂取による有意な変化を認めなかった。

イソマルツロースは動脈硬化リスクの低い甘味料

 著者らは本研究から得られた主要な知見として、「イソマルツロース摂取後にはbaPWVとSBPが摂取前から変化しなかったことであり、仮説が裏付けられた」と述べている。結論として、「イソマルツロースが動脈硬化のリスクを抑制する甘味料として、スクロースの代替と成り得る」とまとめている。

  なお、本研究は三井製糖株式会社が研究資金の一部を提供した。

文 献

Effects of Different Types of Carbohydrates on Arterial Stiffness: A Comparison of Isomaltulose and Sucrose〔Nutrients. 2021 Dec 15;13(12):4493〕

コメント

 食後高血糖すなわち食後の「血糖スパイク」は血管壁の働きを低下させ、血管壁を厚くし、動脈硬化を進展して、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症リスクを高めることが知られています。従って、食後の血糖スパイクを起こさない食事、「スローカロリー」が重要です。

 本論文は、健常者を対象に、動脈硬化の指標である上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)を測定し、スクロース(砂糖の主成分)摂取後と食後血糖上昇指数の低いイソマルツロース(パラチノース)摂取後の変化を比較した結果を示しています。スクロース摂取後は血糖値の上昇に従ってbaPWVも有意上昇を認めたのに対して、イソマルツロース摂取後は血糖上昇が抑制され、baPWVも有意上昇を認めませんでした。本結果は、食後高血糖の抑制は動脈硬化を抑制する効果があることをヒト試験で示したもので、食後高血糖、「血糖スパイク」を抑制することの重要性が理解できます。

(田中 明、スローカロリー研究会 理事)

(2022年01月 更新)
(2022年01月 公開)
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