エネルギー源としての糖質を考える 糖質の役割とは、カロリーの“量と質”
(出典:食品化学新聞)

 

1-2.欧米では賛否両論の糖質制限食

池田 義雄 先生 池田 義雄

日本生活習慣病予防協会名誉会長
スローカロリー研究会顧問

――糖質は、過去および現在において糖尿病治療の観点でどのように扱われてきたのでしょうか

池田 インスリンが発見される1921年以前は、1型糖尿病患者(インスリンを合成・分泌する膵臓のβ細胞が破壊され、インスリン分泌が消失した状態。インスリン注射が必要となる。)が砂糖を大量に摂取すると死に至るケースがありました。血糖値が急上昇して血糖コントロールを急激に増悪させ、そういう日々が続く中で昏睡を起こして亡くなります。この時代の1型糖尿病の治療は、完全糖質制限という非常に苦しい治療が行われてきました。当時は、2型糖尿病(膵臓のβ細胞からのインスリン分泌が低下したり、過食、運動不足、肥満、ストレスや加齢などによって臓器でのインスリンの働きが妨げられることにより発症。)に対してもこれといった治療法がなかったために糖質を制限し、脂肪を多く摂らせる治療法でした。しかし、インスリンが発見された後は、1型糖尿病の救命ができる時代に入ります。また、1型糖尿病でもインスリン治療が高度に進化してきたために、平均寿命を著しく低下させることはなくなりました。現在は、過去のインスリン発見以前の糖質制限の時代に比べて、1型糖尿病において糖質を制限することはありません。その流れの中で、2型糖尿病においても高度に糖質を制限する治療法はなくなりました。

――欧米と日本の医師では糖質に関連する食事療法の考え方に違いはありますか

池田 米国では、「糖尿病食」という概念はなくなりました。バランス良く食事を摂取し、肥満に至らないようにする。指標はBMIにあり、個々人が適正を保つ。また、保てるような食生活をする。量や摂取する栄養素の割合も本人が決めます。結果は体重に表れますので、BMIでみて適正な範囲であれば良いという考え方です。欧米であれば25未満が維持できていれば問題ありません。要するに、糖尿病食としての食事療法を米国は放棄したわけですね。一方、日本はそこまでではないものの、日本糖尿病学会の姿勢も食事療法に対しては非常に緩やかになってきているのが現状です。近年再び話題になっている糖質制限食に関しては、欧米では賛否両論です。米国のロバート・アトキンス先生が提唱する低糖質食は、一時的に体重を減少させるのに良い効果があり、血糖値に関しても糖尿病患者の血糖コントロールに寄与することが短期には分かっています。個々の患者の状態をみながら糖質制限の食事指導をされる先生もいますし、BMIが適正になるような食事で十分だという考え方の先生も多くいます。また欧米では、糖尿病を含めた生活習慣病に地中海食が有効であるといったエビデンスがでています。いわゆる、イタリアンでしょうか。それを推奨し、取り入れている先生もいます。これは、糖質が若干制限されており、オリーブオイルを中心に油脂類の摂取が多めになります。それでも栄養素の全体のバランスは、かけ離れたものではありません。日本では日本糖尿病学会が食品交換表を作成し、バランス食を勧めています。そのバランス食で、適正体重が維持できる範囲に制限することを50年間やっていますし、それが大きく変わってきていることはありません。

――話がでました糖質制限についてお聞かせください

池田 最近、糖質制限が糖尿病の食後高血糖に対して非常に有用度が高いというエビデンスを踏まえて、症例によっては糖質からのエネルギー摂取割合を40~50%程度に制限することがあります。ただし、低糖質の食事療法が長期に続けられるのかといったことや、糖質を制限した場合にエネルギーの一定量を保つには脂質やタンパク質が増えてしまうことへの懸念があります。相対的に増えた脂質やタンパク質、特に動物性のものが長期的に患者の動脈硬化をはじめとする危険度に対して、増すかもしれないということは忘れてはいけません。それを踏まえて、比較的短期に血糖コントロールを行うことは有効です。例えば、糖質を40%に制限した食事を6カ月続けたことで十分血糖コントロールに寄与するものの、それを超える長期のエビデンスはでていません。

 食生活は、日々の楽しみの中心でもあるため、極端な食事制限は長続きしません。ただし砂糖に関しては、日本糖尿病学会の食品交換表では"砂糖はできるだけひかえめにすること。人工(合成)甘味料の使用については主治医や管理栄養士の指導を受けること。"といった記述がありますので、砂糖に代わる甘味料が糖尿病の食事療法の世界では売り込まれ、ゼロカロリー甘味素材を使う人が増えてきました。一方、砂糖と同等の栄養価で、かつ食後の高血糖を急激に上昇させない食品素材が求められています。これからは、エネルギーはあるが機能性の高い甘味素材で、且つ砂糖の代替として使用できるものがどのように市場で評価されていくのか興味深いですね。

出典:食品化学新聞 2014年11月13日(第2559号)

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