スローカロリー糖質「イソマルツロース」を含む飲料は、 運動後や安静時に摂取したときの水分補給効果が高い

 スローカロリー糖質である「イソマルツロース」を含む飲料は、高い水分補給効果を有する可能性を示唆する研究結果が報告された。新潟大学教育学部運動と環境生理学研究室の天野達郎氏と研究室学部生(当時)片山真吾さん、渡邊大地さんらによる2報の報告によるもので、運動誘発性脱水時や安静時にイソマルツロース含有飲料を摂取すると、水分補給効果が高いことが示された。

熱中症予防には'最適な方法'での脱水予防が求められる

 近年の日本の夏は酷暑が続き、連日、熱中症による救急搬送や死亡者の発生がニュースになる。熱中症のリスクを抑えるには、暑熱環境を避けることはもちろんだが、発汗による体温調節機能を維持するために、脱水を防ぐことが極めて重要である。

 熱中症が発生しやすい条件は主に二つあり、一つは暑熱環境下での身体活動により、比較的短時間で発症するケースが挙げられる。これは屋外作業従事者や、教育現場での課外活動時、またはスポーツアスリートに好発する。熱中症リスクの高いもう一つのケースは、屋内で比較的緩徐に病態が進行し発症に至る場合であり、このようなケースは、脱水に対する感受性が低下しており口渇感を生じにくい高齢者に好発する。

 脱水予防には適切な水分摂取が重要であることは論をまたない。また、発汗によるミネラル喪失を補うために、純水ではなく、電解質(主に塩分)が含まれている水分補給の重要性もよく指摘されるところだ。スポーツ活動などに伴う脱水を防ぐツールとして、電解質に加えてエネルギー源である糖質の摂取も適宜必要とされる。

スローカロリーの糖質を用いて脱水を予防するという発想

 一方、エネルギー補給の必要性が高くない、前記のうちの後者の理由(主として屋内で発生する脱水や熱中症の予防)には、糖質による代謝面への負荷が健康状態へ悪影響を及ぼす可能性を否定できない。また、大量に汗をかいていない場合、脱水予防のための塩分摂取が血圧を押し上げるように働いてしまう危惧があることも、しばしば指摘される。天野氏らは、スローカロリー糖質である「イソマルツロース」を用い、糖代謝への負荷を軽減し、かつ水分補給に役立てられないかを検討した。

 なお、摂取した水分の大半は小腸において、ブドウ糖や果糖とともに受動的に体内に吸収される。そのため、ブドウ糖の吸収が抑制される状況では、理論的には水分の吸収も抑制される可能性がある。しかし、イソマルツロース飲料では、比較的短い時間の運動時の体温調節に影響しないことを天野氏らは既に報告している1)
▶スローカロリー糖質「イソマルツロース」の利用は、暑熱環境での体温調節反応を妨げない

 さらに、運動後の脱水からの回復に際して、イソマルツロース飲料はスクロース飲料に比較し、水分補給効果に優れていることも明らかにされている2)。それらの知見を踏まえたうえで、今回新たに行われた研究によって、安静時のイソマルツロース飲料の有用性も示された3)

 本稿では、まず、運動後の脱水からの回復における有用性の検討結果を紹介し、続いて今回報告された安静時での有用性の結果を紹介する。

運動後の脱水からの回復におけるイソマルツロースを含む飲料の
有用性

 運動後の脱水からの回復における有用性の検討は、13名の健康で活動的な若年男性(21.0±0.6歳)を対象とする単盲検無作為化クロスオーバー法で行われた2)。試行条件は、スクロース6.5%、イソマルツロース6.5%、およびグルコース3.25%+フルクトース3.25%という3種類の飲料。なお、6.5%という糖質濃度は、市販のスポーツドリンクとほぼ同等とのことだ。これらの飲料の温度は15℃で統一し、風味や色合いは区別がつかないように調節した。また各条件の試行には、6日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行前夜からの食事は標準化した。

 研究参加者には、2%の脱水を達成後に15分の休憩を挟み、30分以内に割り当てられた飲料を摂取してもらった。その際、最初の10分で総量の50%、次の10分で25%、最後の10分で残りの25%を飲んでもらい、摂取速度のばらつきによる体液バランスへの影響を抑えた。

飲水開始から3時間での体液保持量はイソマルツロース条件が有意に高値

 ヘマトクリット値とヘモグロビン値から推算した血漿量は、飲水開始30分後はイソマルツロース条件が他の2条件よりも有意に低値だった。また、スクロース条件に対しては、90分後の値も有意差が認められた。その一方で、水分摂取量から、3時間の回復期間中の尿量を減算して求めた体液保持量については、イソマルツロース条件がスクロース条件よりも有意に高値だった。

 以上より、深刻な脱水が生じている状態で急速な水分補給が求められる場合には、一般的なスポーツ飲料が適すると考えられるものの、そうではない場合、体液保持効果に優れるイソマルツロース含有飲料が適する可能性が示唆された。

安静時の水分補給に対するイソマルツロース含有飲料の有用性

 続いて今回報告された、安静時に摂取する水分の体内保持効果における有用性の検討だが、この研究3)も単盲検無作為化クロスオーバー法で行われた。対象は、13名の若年成人(21.8±0.7歳、女性が7名)。

 試行条件は、スクロース6.5%、イソマルツロース6.5%、および比較対照として通常の水を摂取する条件を加えた。人工甘味料で風味付けして区別がつかないようにした各条件の試行には、6日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行前夜からの食事は標準化した。また、試行24時間前からの激しい運動を禁止した。

 室温23℃、相対湿度約50%の環境下で、割り当てられた飲料1Lを15分で摂取してもらった。その際、3.7分ごとに0.25Lを飲んでもらい、摂取速度のばらつきによる体液バランスへの影響を抑えた。

 体液バランスは、尿量、飲料の水分補給指数(beverage hydration index;BHI)、ヘマトクリット値とヘモグロビン値から推算した血漿量などで評価。そのほかに、糖代謝への影響も評価した。なお、BHIは、試験飲料を摂取後の尿量を、通常の水を摂取後の尿量と比較して求める値。通常の水は1であり、値が高いほど摂取した水分が体内に保持されやすいことを意味する。

イソマルツロース条件では尿量が減少してBHI高値になる

 まず、摂取3時間での尿量を比較すると、イソマルツロース条件では、スクロース条件や通常水を摂取する条件に比較し、有意に少ないという結果が得られた。スクロース条件と通常水条件に有意差はなかった。

 次に同時間におけるBHIは、イソマルツロース条件が1.53±0.44、スクロース条件が1.20±0.29であり、イソマルツロース条件は他の2条件に比較し有意に高値だった。血漿量については、イソマルツロース条件では摂取30分後の値がスクロース条件に比較し有意に低値だったが、その後の測定ポイントでは飲料条件間の有意差が消失していた。

 このほか、イソマルツロース条件ではスクロース条件に比較し血糖の急激な上昇が有意に抑制されるという、スローカロリー効果が確認された。

 この2件の研究から、イソマルツロース含有飲料を運動後または安静時という二つの状況で摂取すると効率的に水分補給できると考えられた。このことは、イソマルツロース含有飲料が夏の脱水予防に有効になる可能性を示唆している。天野氏らは、「イソマルツロースの摂取により、小腸におけるブドウ糖の吸収速度が抑制されるのに伴い、水分の吸収速度も低下することで尿量が減少して、体内に水分が保持されやすくなると考えられる」と考察を述べている。

文 献

1) Effects of Isomaltulose Ingestion on Thermoregulatory Responses during Exercise in a Hot Environment. Int J Environ Res Public Health. 2021 May 27;18(11):5760.
2) Comparisons of isomaltulose, sucrose, and mixture of glucose and fructose ingestions on postexercise hydration state in young men. Eur J Nutr. 2021 June;60(8):4519-4529.
3) Comparison of hydration efficacy of carbohydrate-electrolytes beverages consisting of isomaltulose and sucrose in healthy young adults: a randomized crossover trial. Physiol Behav. 2022 Mar 2;113770.

コメント

 若年成人を対象に一重盲検無作為化交差試験にて、走運動後のイソマルツロースの摂取や安静時におけるイソマルツロースの摂取が体液保持量に及ぼす影響を検討した貴重な研究である。

 熱中症予防のための水分補給について、運動時のみならず安静時においても重要なことは周知の事実である。運動前や運動中に異なる糖質や電解質を含む飲料を摂取し体内の水分状態を評価している先行研究は散見される。ただし、熱中症は屋内環境にても起こり、直射日光を浴びることや発汗量が屋外と比べ少ないため、喉の渇きを感じにくいことがある。このため、"かくれ脱水"の状態になりやすい。エネルギーの補給は、水分補給の役割に加え、特に運動時のエネルギー消費に対し重要である。しかし、安静時においては、糖質や電解質を含む飲料の摂取による血中グルコースや血圧の上昇への影響が懸念される。一方で腸管内の水分吸収率を高めるには糖質やナトリウムが必要である。

 著者らは、血中グルコースが緩やかに吸収される「イソマルツロース」を用い、血中グルコース、血漿量の変化や体液保持量を検討しており、非常に日常生活への汎用性の高い研究である。運動時および安静時における2つの研究より、著者らは、「体水分量が正常な状態や運動による脱水時にイソマルツロース含有飲料を摂取することで、ショ糖と比較し、グルコース濃度の上昇を抑え、水分の吸収速度の一時的な低下にて尿量の減少を介し、体内に水分が保持されやすくなるため、よい水分補給方法の一つである」と述べている。

 イソマルツロースの特性上、グルコースおよびインスリン濃度の上昇反応の遅延について、著者らの安静時の研究にて認められているが、ショ糖と比較し、急激な上昇(グルコーススパイクやインスリンスパイク)は見られておらず、糖代謝への負荷はかかっていないことが示されており、大変興味深い点である。

(宮下 政司、早稲田大学スポーツ科学学術院 運動代謝学研究室 教授
スローカロリー研究会 理事)

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