習慣的に摂取している糖質をイソマルツロースに変えると動脈硬化進展が抑制~日本人を対象とした無作為化比較試験~

 日々摂取している糖質をスクロース(ショ糖)ではなくイソマルツロース(パラチノース)に変えることで、動脈硬化の進行が抑制される可能性が報告された。本研究は、日本人中高年者を対象に行われた無作為化比較試験の結果で、12週間の介入によってエンドセリン-1レベルに有意差が生じ、かつブドウ糖負荷後の脈波伝播速度(PWV)や血圧の推移に有意差が認められたという。
 帝京科学大学生命環境学部自然環境学科の小林亮太氏らの研究によるもので、「Heart and Vessels」に論文が掲載された。

食後高血糖は動脈硬化の独立したリスク因子

 食後の血糖値の急峻な上昇、いわゆる「食後高血糖」が、空腹時高血糖とは独立した動脈硬化のリスク因子であることが明らかにされている。食後高血糖が動脈硬化を引き起こすメカニズムの一つとして、血管内皮機能の低下の関与が想定されており、さらに近年、血管内皮で産生されるエンドセリン-1の分泌が、食後高血糖に伴い亢進することの影響が指摘されている。

 エンドセリン-1には強力な血管収縮作用があり、血圧上昇や動脈硬化の進展に関与していると考えられている物質である。ただし、食後の血糖変動とエンドセリン-1分泌動態との関連については不明点も残されている。

 一方、食後高血糖を抑制する戦略の一つとして、摂取後の腸管での吸収速度が穏やかな、イソマルツロースの利用が広がってきている。イソマルツロースは、蜂蜜に含まれる天然の糖であり、スクロースと同等の甘さながら食後血糖上昇指数(GI)が低いという特徴をもつ。スクロースを摂取した場合に比べてイソマルツロース摂取後には、動脈硬化の指標であるPWVの上昇が抑制されることも、既に小林氏らにより報告されている(PWVは高値であるほど血管壁の弾力性が失われていることを意味する)。

▶イソマルツロースの食後血糖抑制作用は動脈硬化リスクを低下させる―摂取後の上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)がスクロースと有意差

 ただし、これまでの先行研究は試行回数が限られており、長期間にわたってイソマルツロースを採り入れた食生活とした場合に、動脈硬化に対する保護的な作用が維持されるのか否かは明らかになっていない。以上を背景として小林氏らは、12週間にわたる介入研究により、イソマルツロース摂取がエンドセリン-1の分泌動態や動脈硬化関連指標に及ぼす影響を検討した。

中高年日本人54人を対象として12週間にわたる無作為化比較試験で検討

 研究対象は、治験モニター募集に応募した60人。適格基準は、治療中の疾患や喫煙・高強度運動の習慣がなくて、男性は45歳以上で、女性は閉経後であること。スクリーニングにより6人が除外され、54人の健康な中高年男女が研究に参加した。

 応募者全体を無作為にスクロース群とイソマルツロース群に分類。12週間にわたり、早朝空腹時に25gのスクロースまたはイソマルツロースを含むゼリー飲料を摂取してもらった。介入期間中は、食事や運動の習慣を変更しないように指示した。

 ベースライン時点において、両群ともに年齢は55±1歳で、女性が12人であり、BMIや体脂肪率に有意差はなかった。介入期間中はゼリーの摂取状況がモニタリングされ、飲み忘れがないことが確認された。また、どちらの群もBMIと体脂肪率に介入による有意な変化は観察されず、有害事象の報告もなかった。

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75gOGTTで糖代謝とともに、エンドセリン-1やPWVへの影響を評価

 介入前(ベースライン)、介入4、8週間後、および12週間後(介入終了時)に75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を施行し、血糖、インスリン、血圧、脈波伝播速度(PWV)、エンドセリン-1への影響を比較した。

 これらの評価項目のうち、最初に糖代謝関連の指標である血糖値とインスリン値に着目すると、スクロース群(以下、S群)に比較しイソマルツロース群(以下、I群)では、糖負荷後の上昇が抑制されており、いくつかのポイントで有意差が認められた。この結果は多くの先行研究と同様であり、イソマルツロースの食後血糖抑制作用に関するエビデンスをさらに強固にするものと言える。

介入4週後から、糖負荷前のエンドセリン-1のレベルにも有意差

 次にエンドセリン-1の動態をみると、介入前のOGTTでは糖負荷60分、120分後に、S群、I群ともに糖負荷前より血中濃度が有意に上昇することが確認され、群間に有意差は認められなかった。

 ところが介入4週後のOGTTでは、糖負荷後のエンドセリン-1レベルが有意に上昇したのはS群のみであり、かつ、糖負荷前の時点で既に有意な群間差が生じており、S群のエンドセリン-1レベルのほうがが高かった。同様の傾向は、介入8週後および介入終了時のOGTTでも維持されていた。

 この結果は、スクロースに替えてイソマルツロースを習慣的に摂取することにより、糖負荷の有無にかかわらず常にエンドセリン-1レベルが低い状態に保たれる可能性のあることを示唆している。

糖負荷後のbaPWVにも有意差

 続いて、主として全身の動脈硬化レベルの指標(動脈スティフネス)とされる、上腕-足首間の脈波伝播速度(baPWV)をみると、介入前のOGTTでは糖負荷60分、120分後に、S群、I群ともに糖負荷前より高値となり、群間に有意差は認められなかった。

 ところが介入4週後のOGTTでは、糖負荷後のbaPWVが有意に上昇したのはS群のみであり、かつ、糖負荷荷60分後の値には有意な群間差が認められた。同様の傾向は、介入8週後および介入終了時のOGTTでも維持されていた。

 なお、大動脈に生じている動脈硬化レベルの指標とされる、頸動脈-大腿動脈間の脈波伝播速度(cfPWV)への影響は、両群間に有意差がなかった。

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イソマルツロースは血管に対して保護的に作用すると考えられる

 さらに、糖負荷後の血圧にも有意な群間差が確認され、介入4週間後以降は糖負荷60分後の上腕と足首の血圧はI群のほうが低値であり、介入終了時には糖負荷120分後の足首の血圧にも有意差が生じていた。なお、頸動脈で計測した血圧、および心拍数には有意差がみられなかった。

 以上より小林氏は、「イソマルツロースは、食後高血糖に伴う血管機能の低下を抑制することが示唆され、その機序としてエンドセリン-1の分泌動態の変化が関与している可能性が考えられる。とくに、習慣的な摂取によって、糖負前の定常状態でもエンドセリン-1レベルの低下が確認された点は注目に値する」と述べている。論文の結論では、「スクロースよりもGI値が低いイソマルツロースは、健康な中年以上の成人の食後高血糖に伴う動脈硬化の進展抑制に効果的と言える」と総括されている。

 なお、本研究は三井製糖株式会社が研究資金の一部を提供した。

文 献

Habitual isomaltulose intake reduces arterial stiffness associated with postprandial hyperglycemia in middle-aged and elderly people: a randomized controlled trial〔Heart Vessels. 2023 Sep 30〕

コメント

 食後高血糖は空腹時高血糖とは独立した動脈硬化のリスク因子であることが明らかにされている。それを支持するデータとしては、ブドウ糖負荷により動脈硬化の指標である内皮エンドセリン-1および脈波伝播速度(PWV)が上昇することが報告されている。

 本論文では、中高年の健常男女54名を対象にイソマルツロースおよびスクロースを3ヶ月間継続投与し、ブドウ糖負荷後のPWV上昇抑制および内皮エンドセリン-1上昇抑制の長期的効果を比較し、イソマルツロースのPWV上昇抑制効果および内皮エンドセリン-1上昇抑制効果が継続的に維持されることを報告している。

 本論文において、食後高血糖抑制効果のあるイソマルツロース継続投与によりブドウ糖負荷後の内皮エンドセリン-1上昇抑制効果が示されたことは、食後高血糖と血管内皮機能低下との関連性を示すものである。

(田中 明、スローカロリー研究会 理事)

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