【トピックス・文献紹介】イソマルツロースの血糖上昇抑制による認知機能(集中力)の向上

 近年、糖質制限が注目されていますが、私たちは年齢や体調、趣向に合わせて、適切に糖質を摂取することが大切です。なかでも食事に占める糖質は、私たちが生きるために主要なエネルギー源であり、思考や活動の中心的な役割を果たしています。一方、食後に血糖値が急上昇し、その後急降下する「血糖値スパイク」の健康への影響が指摘され、血糖値スパイクを起こさない食事の摂り方「スローカロリー」が注目されています。

 カロリーや糖質の「量」だけではなく「質」により重点を置き、糖質をゆっくり(スローに)消化・吸収させることで、糖質の本来の役割を生かした健康づくりを目指す考え方で、「スローカロリー」という食のライフスタイルです。

スローカロリーのためのイソマルツロース

 では、スローカロリーを食事に取り入れるにはどのような方法があるのでしょうか。 その第一は、食事の摂り方の工夫です。具体的には、「ゆっくり、よく噛んで食べる」、「野菜をまず食べ、糖質は後に摂る」、「食物繊維の多い食品を摂る」といったことが基本です。それらに加えて、「消化吸収の遅い糖質を含む食品をと併せて摂る」という方法があります。

 「消化吸収の遅い糖質を含む食品の選び方」とは、「食後血糖上昇指数(グリセミックインデックス.GI)」を考慮するということです。GI値が高いと食後の血糖上昇が急峻で、かつ反応性低血糖が起こりやすくなります。一方、GI値が低い食品は血糖上昇が穏やかで、反応性低血糖のリスクが低く、食後、長時間にわたり適度な血糖レベルを維持するのにも向いています。GI値が低い糖質として、乳糖や果糖、そして、イソマルツロース(パラチノース)などが挙げられます。

 単にGI値が低い糖質ということではなく、食事全体の消化吸収も緩やかにすることから、スローカロリーの食生活を行う上でカギとなる素材の一つと言うことができます。

 最近、イソマルツロースによる血糖上昇の抑制に関するシステマティック・レビューと、認知機能に関する無作為化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験が発表されました。

イソマルツロース(パラチノース)の血糖上昇抑制に関するシステマティック・レビュー

パラチノースによる血糖値上昇抑制効果に関する定性的システマティック・レビュー〔日本食品科学工学会誌.2020;67(6):193-202〕

 パラチノースの血糖値上昇抑制効果は複数の臨床試験で示されており、また、スクロースやグルコースなど他の糖質と同時に摂取した場合にも食後血糖値の上昇を抑制することが知られています1)。 

 本レビューは、疾病に罹患していない健常者において、パラチノースはプラセボと比較して摂取後の血糖値の上昇を抑制するかを明らかにすることを目的としたもので、ランダム化試験による研究に限定して定性的なシステマティック・レビューを実施したものです。

 採用された文献はランダム化クロスオーバー試験の文献4報(日本2,3)、アジア4) 、ドイツ5) )で、いずれの報告からも、疾病に罹患していない健常者において、パラチノースが食後血糖の上昇を対プラセボで有意に抑制することが示されました。

 解析の結果、研究グループは「パラチノースを1回あたり7.35g以上摂取すると、血糖値上昇抑制に有効であることが示唆される」と結論づけています。

イソマルツロース(パラチノース)が注意力と集中力を向上

The Effect of Palatinose Intake on Cognitive Function
―A Randomized Double-blind Placebo-controlled Crossover Study―〔Jpn. Prmacol. Ther. 47;3. 437-443, 2019〕

  糖質は脳にとって非常に重要な栄養であり、糖の種類や供給形態が異なると脳へ与える影響も異なります。イソマルツロースは、ゆっくりと吸収・消化され、スクロースやグルコースと比較して長期間にわたって血糖値を維持するため、集中力の維持と記憶力の改善する効果が期待され、それを裏付けるような様々な研究結果が報告されています1)

 これに関連する研究として、イソマルツロース摂取後の認知機能を無作為化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験で検討する研究が行われました。

 対象は20~65歳の日本人40例。BMIは18.5~23で、糖代謝異常や脂質代謝異常がない健康な成人です。イソマルツロースまたはプラセボを摂取する群に無作為に割り付け、午前8時までに514kcalの朝食を摂取した後、研究施設に移動してもらい、正午にそれぞれイソマルツロースまたはプラセボ20gとともに354kcalの昼食を摂取。昼食摂取前60分、および摂取60分後、120分後、180分後に、認知機能テスト、および自己報告による眠気スコアを評価しています。

 その結果、単純注意力のスコアがイソマルツロース摂取では、摂取前60分が47.8±23.2、摂取60分後57.5±29.0、120分後51.5±24.7、180分後58.6±18.1と推移し、プラセボ摂取では同順に59.4±17.5、50.2±25.1、49.9±27.8、57.9±20.4と推移しました。

 摂取前60分とのスコアの変化量を比較すると、摂取後60分および180分において、イソマルツロース摂取時がプラセボ摂取時よりも変化量が大きく、有意差が認められました(いずれもp<0.05)。

 また、眠気スコアの変化量は、摂取後120分と180分において、イソマルツロース摂取時がプラセボ摂取時よりも有意に低値であり(いずれもp<0.01)、イソマルツロースが食後の眠気を抑制することがわかりました。

 なお、持続的注意力に関しては、条件間の有意差はありませんでした。

まとめ

 今回は健常者の認知機能に焦点を当てて、血糖値の急激な変動を抑制するメカニズムをもつイソマルツロース(パラチノース)が認知機能や集中力が維持することを示唆する最近のエビデンスを紹介しました。

 糖質は、身体活動だけでなく、脳の活動にも重要なエネルギー源。その重要な糖の源は食事です。糖質の取り方、糖質の「質」を考えるスローカロリーという食のライフスタイルは、私たちの健康づくりに最も重要なキーワードといえるかもしれません。

コメント(宮崎 滋、スローカロリー研究会理事長)

 脳内の神経細胞は、血液脳関門を通過した糖を主要なエネルギー源として活動しているので、血液脳関門に存在する糖輸送体は血糖レベルの影響を受けやすく、血糖(血中ブドウ糖)が上昇すると、より脳にブドウ糖を多く送りやすくなります。消化・吸収が穏やかな糖(パラチノース)を摂取すると、長時間にわたり血糖値が急上昇せず、変動の小さい状態を維持します。この持続性が、脳にブドウ糖を送りやすい状態の維持につながり、脳の働きや集中力の持続に関わると推察されます1)。 

 血糖値の変動を穏やかにする糖質は、生活習慣病の予防だけでなく、長時間にわたり脳機能を維持・向上させるので、長期的に脳機能を維持し、集中力を高める可能性があると言えます。

参考文献

1)パラチノースガイドブック
2) Holub, I., et al. Novel findings on the metabolic effects of the low glycaemic carbohydrate isomaltulose (Palatinose). Br. J. Nutr., 103 (12), 1730‒173, 2010
3)Maeda, A., et al. Effects of the naturally-occurring disaccharides, palatinose and sucrose, on incretin secretion in healthy nonobese subjects. J. Diabetes Investig., 4 (3), 281‒286, 2013
4)Miyasaka, K., et al. Effects of isomaltulose-blended sugar on postprandial blood glucose levels (randomized double blind cross over study). Pharmacometrics (Oyo Yakuri), 91 (3/4), 55‒60, 2016
5)Kendall, F. E., et al. The comparative effect on satiety and subsequent energy intake of ingesting sucrose or isomaltulose sweetened trifle: A randomized crossover trial. Nutrients, 10, 1504, 2018

(2020年10月 更新)
(2020年10月 公開)
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